かたちを喪って

Date
2007-08-10 (金)
Category
clothes | みうみうにっき

strawberry_jane_with_bag.jpg

最寄り駅で電車を降りてはじめて、新宿で買ってきたかったもののことを思い出した。そういえば家主先生が今日は珍しく自社勤務で早く上がると言っていたので、まだ新宿で何か見てるなり食事しているなりであれば、A4のプリンタ用紙を数種買い足してくれと頼もうと思い電話をかけた。
いまどこにいるの、と問うたところ、例のバーボンハウスにいる、という。あわてて追いかけた。
その店はビールとバーボンしかない、といっても過言ではない、かなり気合いの入った店だ。聞けば自分でアメリカまでボトルを買い付けに行くのだという。

ここに来るのは2回目だ。前に来たときはメアリの白いコートを着ていた覚えがあるので、半年ほど前になるだろうか。ひたすらチェリービールをゴキゲンで飲んでいた覚えがある。
辿り着けば店にはまだ家主先生しかおらず、「お待ち合わせですか」と店主。カウンターに腰掛けた家主先生の隣に陣取った。
家主先生の飲んでいたビールをひとくちもらい、これならわたしも飲みたいと思って同じものを頼む。しかしやはりビールはビールで、途中からあまりに重く苦くなり、飲み切るのにかなり時間をかけてしまった。

家主先生が店主と楽しげに酒の話をしている。嬉しそうな顔をしている。甘い残香をさせるグラスの中のバーボン。「バニラ香が強いでしょ」と店主。気になってひとくち横から頂いた。
普段飲むアルコール類との決定的な違いは、口にいれた途端全部軟口蓋や上顎に逃げていく感覚に尽きる。口の中に残る香りはたしかにバニラだ。
「バニラの香りの強いものを、ソーダ割でいただけますか」とお願いした。自分で頼む初バーボン。
「甘い辛いなんてないんだけどね、全部バーボンの味しかしないんだから」そういって店主は笑った。「でも味見のときは言うけどね。これ甘いねーなんて。甘い辛いは便利な言葉だから」
そう言われてはじめて、便利な言葉に溺れて水面から顔を出せなくなっている自分に気がつく。
「ソーダの分量を多くするとドライになるから、半々くらいで」
確かにアルコールは強い。しっかりと苦味がある。けれども喉の奥を通り越した途端、舌のうえや鼻腔に淡くあまい香りが残った。飲み下したあとに感じる味。そのかたちをなくした時に初めてそこに残るもの。わたしはその存在をいままで知らなかった。

隣を見れば家主先生が、空になったグラスの香りを嗅いで嬉しそうな顔をしている。グラスに残るその馨りは、味からは想像されないほどに甘かった。濃密なバニラの香りがする。聞けば空のグラスの香りを楽しむ客は少なくないという。
「美味しいお酒があっていい顔にならない人なんていないよ」
家主先生はそう言って、また滅多にしない顔で笑った。

写真と本文は関係ありません(ちょっと待て
いや、服は前日のものなんです。ごめんなさい。写真は撮ってたんですけど、upするのがもたもたと遅れて……
友人に譲っていただいたJaneの苺ワンピは、気づいたときには店頭になくて地団駄を踏んだ怨念の品のひとつ。夏らしくて涼しげで、Janeのこういう形の面裏地の服は大好き。

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